10年ほど前に"City of the Angel"という映画を見たときに、登場人物が読んでいたHemingwayの"A Moveable Feast"が気になって、(当時は洋書なんて読めなかったので)日本語訳で読みました。Hemingwayがパリでいちばんはじめの奥さんHadleyと過ごした、無名時代から徐々に才能を開花させていく大事な時期が描かれているんですが、とてもおもしろかったんですね。雰囲気のあるカフェなんかで本を読んだり文章を書いたりするのが好きな人なんかは、楽しんで読める作品だと思います。高見浩の日本語訳も本当に素晴らしいですが(『移動祝祭日』というタイトルの日本語訳もいいですよね)、原書を読み、さらに英語でオーディオブックも聞いてみると、やはり原文いいな~と感じました。
"A Moveable Feast" (By Ernest Hemingway)
そしてこの時代のお話を、奥さんの視点から書いたフィクションが2011年2月に出版された"The Paris Wife"です。書いたのはもちろん奥さん本人ではなく、Paula McLainというアメリカ人の作家です。フィクションなので、この本の中でHemingwayがHadleyや仲間と交わしている会話は全くPaula McLainによって作り上げられたものなのですが、これがうまくできてるんですよ。難しいチャレンジだし、賛否両論もあるだろうけど、"A Moveable Feast"ファンの期待を裏切らない完成度の高さだと思ってます。しかも実際に起こった出来事("A Moveable Feast"を読んでいればすぐに分かる)に沿ってストーリーが展開するので、分かっているのについついフィクションということを忘れてしまうような感じなんです。おもしろいのは"A Moveable Feast"の中で、HemingwayはHadleyとの日々を幸せそのものというように綴っているんですが、"The Paris Wife"にはふたりの間の小競り合いやHadleyのHemingwayに対する不満なんかがぶちまげられているんです。例えばHemingwayは「僕たちは貧しいトイレもないアパートに住んでいたけれど、妻はそんなことに対して何も文句を言わなかった。だって僕たちはいつでも温かいベッドで愛し合えるんだから。」なんて"A Moveable Feast"の中でしょっちゅう言ってるんですが、"The Paris Wife"の中でHadleyは「トイレもない不潔なアパートが心底イヤだった。」なんて書いてるんですね。今気付きましたが、ある意味『冷静と情熱の間』みたいな感じですよね。いくつかバージョンがありますが、"The Paris Wife"のこのジャケットも好きです。
"The Paris Wife" (By Paula McLain)
そしてこのパリ生活の中で書かれた大作が"The Sun Also Rises"なんですが、これはHemingwayの当時の生活ほぼそのままだったとか。実際の友人たちとの会話をそのまま書いて本にしてしまったようなものらしいです。だから"The Sun Also Rises"、"A Moveable Feast"、"The Paris Wife"の3冊を読むと、同じストーリーを3つの視点から読んでいるような気分になってくるんですよね。
"The Sun Also Rises" (By Ernest Hemingway)
真の読書好きならもちろん"The Sun Also Rises"をいちばん評価すべきなんでしょうけど、私にはまだこの本の素晴らしさが分かりません。この本は6年ぐらい前に日本語訳を読んだのですが、「なんじゃこれー」と思って途中で読むのをやめてしまいました。その後、村上春樹がどこかに「最近『日はまた昇る』を読みなおした。なぜこの小説の良さが若いころには分からなかったのだろう。」と書いていたのを偶然読んで、「もう少し大人になったらもう一度読んでみよう」と思ったのですが・・・。今回はオーディオブックで最後まで聞いたのですが、うーん、まだダメでした。雰囲気は楽しめたのですが、そのぐらいかなぁ。5年後ぐらいにまた読み直してみたいです。
ところでPaula McLainはとてもチャーミングな人(もちろんインタビューもチェック済み )なんですが、かなり辛い幼少期を送っているらしく、自身の生い立ちを綴ったメモアーも出版しています。これも近々読むつもりですが、アマゾンで注文して届くのを待っている"A Ticket to Ride"を次に読む予定です。
ちなみに私は"The Paris Wife"もオーディブックで聞いたのですが、よかったです。レビューではかなりナレーターが酷評されてるんですけどね。よかったけどな~。
Kazuo Ishiguroの"Never Let Me Go"。オーディオブックで聞きました。UNABRIDGEDで9時間46分、Rosalyn Landorという方のなんとも美しいブリティッシュアクセントでの朗読でした。別にブリティッシュアクセント好きでも何でもないのですが。お話的にも、ナレーター的にも、こういうのを聞いちゃうと、後に何を聞いたらいいのか分からなくなります。
言わずと知れた名作ですし、いつかはきっと読むことになるだろうと前々から思っていはたのですが、かわいそうなお話という先入観があったのと、村上春樹がどこかで「洋書でお薦めなのは"Never Let Me Go"だけど、英語が難しい」というようなことを書いていたので少し敬遠していたのかもしれません。そんなに難しくなかったように思うけどな~。
Kazuo Ishiguroの作品は『私たちが孤児だったころ』、『夜想曲集』(←土屋政雄の訳最高!!)を日本語で読み、"The Remains of the Day"を英語のオーディオブックで聞いたのですが、あまり文体に特徴があるという印象は強くなかったんですね。しかしこの"Never Let Me Go"は癖があるある。途中からあのくどさにはまって、もうたまりませんでした。脱線しまくって、何の話をしていたのか忘れたころに"So, what I am trying to say is..."なんて言うんですよね。ああ、思い出して書いてるだけでゾクゾクしてきました。